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世界に一つの優しい明かり " パンプシェード" を生み出した森田優希子さんの素顔

本物のパンからできたライト、"パンプシェード"  https://pampshade.com 

パンの本場パリ、ニューヨークでも注目されているそのプロダクトは、港町神戸のアトリエで、一つひとつ大切に向き合って制作されていました。

パンプシェード誕生のきっかけや、パンに対する思いを、作者であるアーティストの森田優希子さんに語っていただきました。

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学生時代、パンへの愛着と作品づくりへの探究心から生まれたパンプシェード

美大に通っていた時代に、パンが好きなのでパン屋さんで働きたい、という単純な理由でパン屋さんで働いていたんです。スタッフとして働くと、今まで知らなかったパンの色々な深みや面白さに出会いました。

それまでフランスパンって、固いとか、そんなに味がないというイメージだったんです。それがパン屋さんで焼きたてのものを食べたら、おいしい!ちゃんとしたフランスパンてこんな美味しかったんや!って、本当にびっくりしたんですよ。焼きたてのフランスパンにバターをつけたら、えー!ってびっくりしまいました。それを大学時代にやりすぎて、今より10キロも太ってたんですよ!

そういったパンの美味しさへの感動から、職人さんがイーストを生き物を育てるように管理している姿、毎日気候によって焼けるパンが違ったりと、パンってこんなおもしろいんだ、なんて素敵な存在なんだと、私はそこに感動と愛着を持ちました。

一方で大学では美術の勉強をしていたので、私が日々の暮らしの中で感銘をうけたものを、作品として活かせないかなと、いうことをずっと考えていたんです。
そこでパンという素材をつかって、なにかしらの作品を作るということに挑戦しはじめました。

思いつく限りのことをしていく中で、フランスパンって表面は硬くて中はやわらかい、という特性がありますよね。それで中をくりぬいてみようと思いました。作業をしているときに、くり抜かれたパンの外側のほうに、窓からの光があたって、透けて光ったように見えた瞬間があって、あれっなんだ!?って。
急いでライトにかざしてみて、そこで私は、パンが優しく光る、というのをみつけたんです。

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それまでにもパンの可能性を考えて、本当にいろいろ試していたんですよ。
例えば、パンを薄くスライスして、断面が繊維状になったものを顕微鏡で見てみたりしました。面白いものが顕微鏡の中に見えるかもしれないと思って。
あとは、野外にパンを持っていくとカビがはえてくるじゃないですか。置く場所によって、生えるカビの種類や生え方が変わることがわかったんです、それで 何かできないかずっと観察したりしていました。理科の夏休みの自由研究みたいな感じですよね。

具体的な目標もないまま、いろんな可能性をいろんな方向に投げて、あれでもない、これでもないってやってくなかでひとつ、一番惹かれたものが、パンのライトでした。それが一番最初の出会いです。

高校のときには理系で数学や物理が好きだったのも、いま振り返るとつながってるところはあると感じることがあるんですよね。美術って、ぱっとイメージすることって、絵画とかデザイン、装飾とか、表面的な美しさみたいなものだと思うんですが、現代美術では特に、コンセプトや概念の美しさみたいなものを評価する向きがあるんです。概念の美しさとは、例えば数学者の言う"数字の美しさ"とか。数学や物理とは必要とされる技術や能力はもちろん違いますが、共通する部分もあると思います。

29歳での独立。私がやらなければ誰もやらない、私がやるっきゃない

美大卒業後に、繊維関係の会社で企画デザインの仕事をしていました。それはそれで楽しかったんですが、ふっとあのパンの明かりを思い出して、土日にもう一度、趣味の創作活動の一環としてパンのライトづくりを始めました。失敗と成功を重ねているうちに、すごく楽しくなっちゃったんです。

そうこうしているうち、作品として買ってくださるお客さんも出てき始め、規模も少しずつ大きくなり、どちらを続けるか選択を迫られる事態になりました。それが29歳のときでした。悩んだんですが、やっぱりパンのライトは私がやらなきゃ誰もやらない。私の他に誰がやるんだ!と思い、独立を決意したんです。

いま振り返ると、生活のことはそこまで深く考えてなかったと思います。
会社員時代の貯金で生活費は少しあってこれでしばらく暮らしていけるし、有り余る時間と創作意欲でなんとかなるでしょう!っていう計算で。
本当に、これで食べていけなかったらどうしようっていうのは、びっくりするくらい考えませんでしたね。
周りの人から「ブランド立ち上げた」とか「起業した」って言われことでようやく独立を自覚するような具合でした。。全くそんなつもりじゃなかったんです、パンのライトが作りたくって、結果的に今の状態になっているという感じです。

パン屋さんと同じ気持ちで、毎日表情の違うパンと向き合う

作品で使っているパンはずっと、地元の神戸にある”ビゴの店” https://www.bigot.co.jp  のパンです。
同じ種類のパンでも、私は全部同じものじゃないと思っているんですよ。パン屋さんが毎日毎日パンに向き合うように、私もパンと向き合っている。そんな認識が自分の中にはあると思います。自分では意識していなかったのですが、自分の制作スペースのアトリエも、よくパン屋さんみたいだねって言われます。

一方で取引先からの新商品のリクエストはありますし、私自身海外で色んなパンを目にする度に、もっと色んな種類のパンでやってみたいという気持ちもあります。本当にちょっとずつですが、年に1個ぐらいは増やしているんですよ。

フランスパンで受けた衝撃と感動から、ずっとバタールやシャンピニオン、クロワッサンなどフレンチ系のパンで作っているんですが、ドイツのお客さんからぜひドイツのパンでやってほしい!と言うリクエストもいただいて、今度挑戦してみようと思っています。

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食の豊かさの中から産まれた、パンプシェードという作品

活動していて、食べ物を作品にするっていうのはどうなのか、という意見を持っている方は、日本でも海外でもいます。その意見はもちろん尊重しています。ですが、私は、食べることだけがパンの存在意義ではないと考えています。

スタッフとしてパン屋さんで働いていた際、一日の営業が終わって閉店後、さっきまで値段のついていたパンが、急にゴミ箱に捨てられてしまうのを見てとても違和感を覚えた事を覚えています。さっきまで”食べ物”だったものが急に”食べ物では無く”なる。私はパンに対して、食べ物としてもそうでなくとも愛着を抱いているんです。

食べ物というのは、体に取り入れて栄養となることだけが使命じゃないと思うんです。人々が生活の中で、栄養素として体に取り込むというのも一つ、食べながらみんなで楽しい時間を過ごすのも一つ、食べてストレス解消するのも一つ。どれも食べ物の役割だと思うんです。その中に、生活の一部に溶け込む明かりとして楽しむ、という選択肢があっても良いのではないでしょうか。。うまく言えているかわからないですが。

私自身、パンプシェードは食べ物に困っているような国に持っていくべき作品ではないと思っています。私はたくさんのパンに囲まれた生活の中で、パンプシェードという作品に出会いました。もし貧困でパンがないと生きていけないという世界に生きていたら、この作品は生まれてきていないんです。

アートというものは、最低限の生活の範囲内では欲求として出てこないものだと思います。私の作品って、ずばりアートとのど真ん中にあるものじゃないけれども、アートを学ばなければ絶対にたどり着かなかった。
パンプシェードは、アートとプロダクトの中間みたいなところにあって、はっきりいってそんなに人の役に立つようなものじゃないんですけど、でもあったっていいじゃない? と。

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海外にも活動の範囲を広げ、新たな刺激を受けている

去年から本格的な輸出を始めました。主に海外のインテリアやギフト、雑貨関係の見本市に出展するなどして、海外の卸先を増やしています。今はパリ、ニューヨークの2拠点ですね。
パリだとその周辺国のデンマークやドイツ、スペインなど、周辺国の方も来てくださるので、そこからまた広がっていっています。

海外に出てみると、いろんな面白いパンの作品があって、そういったところから刺激を受けています。アムステルダムで今年行われた、クラストヴァンブロード( https://dekunstvanbrood.nl 日本語で”パンの芸術” )という展示会に出品したときに、小麦粉の中でダンスをするパフォーマンスがあったんです。こんな表現は思いもよらなかったびっくりしました。私はパンを素材にして作品作りを行っていますが、小麦については深く考えていないことに気づきました。

あとは、パンの焼ける音を録音して作品にしようとしてる人もいて、これが最後どういう作品に仕上がったのか、ちょっとわからないんですが、おもしろいですよね。パリパリという音がすごく可愛く愛らしく思えるのは、パン職人なら共感するところだと思います。

写真の作品もあって、壁一面にパンが敷き詰められていてその前に裸婦が立っている写真やマッチョな男性がパンをこねる写真もあって、シュールなんですけどすごくかっこいい!と思いました。この写真については、ヨーロッパでは食生活のベースがパンなので、"日々の生活と労働"を"力強くパンを捏ねる男性"で表現しているのかな。これは私の感想ですけれども。

海外のお客さんからは、日本ではない反応が返ってきたりするんです。例えば、「光るバゲットを小脇に抱えて、ハーイってパーティーに行きたい!」なんて話をニューヨークのセレブの方がおっしゃってました。すごくアメリカっぽいシチュエーションですよね。
その方曰く、「アメリカのセレブ層はグルテンフリーの食事をしていて、パンはたべない人が多い。だから僕は食べない代わりに光らせるんだ!」と。これはウィットに富んだ作品だとおっしゃってくださいました。それこそ、日本人の私がパンに持っている感覚の、もっと先にある感覚なのかな、と思いました。

パン業界を一緒に盛り上げるような存在になっていきたい

もちろん、これからもパンプシェードを作っていきたいです。でも、それだけではなくて、パン屋さんとも、もっと一緒にできるようなことを模索していきたいです。今は自分の事業だけで完結してしまっているところがもったいないと感じています。

”ビゴの店”の店長さんに、始めてパンを使わせて頂けないかお願いしに行ったときは、すごく驚かれてピンと来ていない感じだったのですが、私の思いを聞くと快諾してくださいました。。

始めはただ提供先の一部としてパンを作ってくださっていたと思うのですが、いざ自身のパンで作られたライトをご覧になると、「こっちのバゲットを使って欲しい」とか。「今日は思う様なものが焼きあがらなかったので納品できません。」というようにこだわって作ってくださる様になって。自分の焼いたパンが、食べるだけじゃなくて、明かりになったときのことまでイメージしてパン作りをしてくださっているんだと思います。

今はすごく喜んでくださっています。もしかしたら、パン屋さんにとっても、新しい可能性を感じるきっかけになるのかもしれないなと思っています。

パン屋さんと違うジャンルとしてではなくて、「あなたは美味しく食べるパンを作っています、私は温かいパンの明かりを作っています」という様な感じで、パン業界を一緒に盛り上げ、互いに良い影響を与えあえるような存在になりたいと思っています。

パンフォーユーさんとも、何か面白い取り組みが一緒にできると良いですね。

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パンプシェードの購入はこちらから
https://pampshade.com

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